補聴器購入時に必要な測定は純音聴力測定だけではありません!もうひとつとても大切な測定があります

僕は補聴器の購入を検討される方には必ず2つの測定を行います。

ひとつ目は経験された方も多いと思います。ピーピーとかプープーと聞こえたらボタンを押す測定です。これを専門用語で純音聴力測定、その結果表をオージオグラムと言います。

この測定ではその人が聞こえる一番小さい音がどのくらいかを音の高さ別に調べる測定です。聴力測定の基本中の基本ですね。この測定結果によってその人の難聴度が軽度、中等度、高度、重度難聴に分類されます。これをせずに補聴器販売をするお店はまず無いでしょう(^^ )

この測定に関しては

純音測定のブログ

↑に詳しく書いていますのでよければ参照して下さい。

音の大きさの単位はdB(デシベル)で表されます。おおよその目安ですが

  • ささやき声     20dB
  • 新聞をめくる音 30dB
  • 普通の会話 40~50dB
  • 大声の会話 80dB
  • 電車のガード下 100dB
  • 車のクラクション 110dB

こんな感じになります。聴力とはその人が聞こえる一番小さな音の大きさです。言葉が聞き取れるという意味ではありません。純音聴力測定で平均聴力が50dBの中等度難聴の方は聞こえる音の1番小さい音が50dBなのです。ですからささやき声は聞こえないし普通の会話も音としては分かっても言葉として理解できるかどうかは純音聴力測定では分からないです。

純音聴力測定によって難聴の程度が分かると次にするのが今日のテーマの測定です。この測定の目的はその人の言葉がどのくらい聞き分けることができるかどうかを調べることです。

難聴の方に話しかける際、普通の声の大きさだと聞き取れないが、大きな声を出せば1回で聞き取れるか、何回か同じ事を言わないと聞き取れないか、など難聴の程度にかかわらず差が出ることがあります。それは言葉の聞き取りの差です。

それを調べる測定を語音弁別測定と言います。純音聴力測定と同様にヘッドフォンをした状態で片耳ずつ音ではなく言葉を聞いて頂きます。例えばヘッドフォンから「た」と聞こえたら用紙に「た」と書いて頂きます。これを音の大きさ別にどのくらい正解するかを調べます。

これは当店のお客様の実際のデータです。

90dBの大きさの言葉は正答率が85%

80dBでは80%

70dBでは60%

60dBでは50%

となっていますね。この方の言葉の一番聞き取りやすい大きさは90dBとなります。ちなみに100dBは測定していませんが、先に書いたようにガード下の大きさですから、危険な場合もあるので割愛することが多いです。

会話において言葉は繋がっていますから言葉自体を100%理解できなくても経験や話の流れで何を言っているかが分かります。耳鼻科学会によれば60%理解できれば会話が成立するであろうと言われています。この方の場合は補聴器で音を30dB大きくすれば通常の会話の大きさ40~50dBが70~80dBに増幅されるのでまずはこれで調整してみよう、となります。

ちなみに測定結果をよく見てみると「ラ」→「ガ」、「ス」→「ツ」、「チ」→「シ」と母音は合っていますが、子音を多く間違えていますね。子音間違いは多くの難聴者の方に見られる傾向です。蛇足が続きますが、お気づきでしょうか。純音測定のデータが無くても語音弁別測定をするだけで補聴器の調整目標が決まっています。そう、それほどこの測定は大事なのです。もちろん実際は必ず純音測定もしますからご安心を(^^ )

さていま仮にAさん、Bさんのお二人がいたとします。お二人とも純音聴力測定では全く同じ聴力とします。ではこのお二人が同じ補聴器、同じ調整をすれば同じ結果になるでしょうか?補聴器を装用して純音聴力測定をすれば同じ結果になるでしょう。その人が聞こえる一番小さい「言葉」ではなく「音」が補聴器によって底上げされますから。でも肝心の言葉の聞き取りがどのくらいできるかはこの測定だけでは予想できません。

横軸が音の高さ、右にいくほど高い音になります。縦軸が音の大きさです。例えば基準となる音の高さ1000Hzでは少しずつ音を大きくしていって40dBのところでボタンを押した、と言う意味です。つまりAさん、Bさんにとって1000Hzの音は40dBが一番小さい音になります。健聴者はどの音の高さでもおおむね0dBでボタンが押せます。

ここで語音弁別測定をした結果が以下の通りだとします。

こんな結果になったとしましょう。書かれている難しい言葉は取り敢えず無視して(^^ ) 横軸が言葉の音の大きさ、縦軸がその正答率です。一般的に音が大きいほど正答率は上がります。Aさんは80dBの大きさで85%の言葉が理解でき、音が小さくにつれ正答率が下がり50dBでは40%になりました。一方Bさんの正答率は70dB、80dBで45%、50dBでは30%でした。

ここでAさん、Bさんともに補聴器で音が30dB大きくなるように調整してみます。純音測定では同じ結果なので補う音の大きさも同じになります。そうすると下のグラフのような予想が得られます。

重要なことは補聴器は言葉の理解度を向上させない、と言うことです。あくまでも補聴器は音を大きくする器械です。グラフで表すとそれぞれの点が左に水平に移動する形になります。今回は30dB音を大きくしているのでその分グラフが左に移動した形になります。

Aさんは50dBの音が80dBになり、補聴器をしなかったら40%しか言葉が理解できませんが、補聴器によって80%まで向上することが期待でき、会話もスムースになるかと予想できます。

一方Bさんの場合は同じように50dBの音は80dBになりますが、理解度は半分以下のままですので会話が成立しにくいと考えられます。

このことを購入前にご本人、ご家族に伝えることができる。これはとても大事です。この測定せずに補聴器をBさんに販売し、実際使っても音としては分かるけど何を言っているかが分からない、となります。

でも購入前に補聴器をしても言葉の理解度はなかなか上昇しないことをご本人と周囲の方にお伝えすることでご理解頂きます。よく聞く話ですが、家族の方が「補聴器してるのに聞こえていないの?」と言われることがありますが、これは補聴器を装用している人にとってとても辛い言葉なんです。もちろん調整が悪くてそうなる場合もありますが、Bさんのようにどうしても言葉ができない人もおられるのです。そのことをきちんと購入前にお知らせする。補聴器を販売するに当たって絶対におろそかにできないことだと思っています。今回は例ではお二人にたとえましたが、実は右耳がAさんの結果、左耳がBさんの結果のパターンもあります。この場合は右耳で言葉を理解し左耳の補聴器は音を認識する道具として役割を変えるようにして使って下さいという場合もあります。

いずれにせよこの測定をすることで補聴器を購入するにあたり、期待して良いこと、悪いことが事前に分かり、補聴器の役目も自ずと決まってきます。そのことを当事者だけでなく周囲の人も含め理解していただき、お互いがお互いをいたわり合って成り立つようにお願いするのが補聴器販売者の大切な仕事だと思っています。

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